パンデミック対策

新興・再興感染症に対する準備 ~個人用防護具の備蓄と診療継続計画~

はじめに
 新興・再興感染症のように感染性や病原性の不明な 感染症の発生、それらの感染症の流行が拡大し国内で 患者発生、さらには地域で急激に患者が増加するといっ た可能性はいつでもあり得ます。医療機関においては こうした状況を想定した事前の準備が求められていま す。主な準備としては、感染対策と診療継続のための 計画作りが挙げられます。本稿では感染対策の中でも 特に防護具の備蓄と診療継続計画について解説します。

防護具の備蓄
 感染対策としては、特に未知の感染症が発生した場 合には防護具やその他の物品の需要が急に高まり、新 たに得ることが難しくなります。そのため普段から有る 程度の備蓄をしておくことが必要です。備蓄する防護 具としては、まず医療機関の体制やリスクに応じてど の防護具をどの分量準備するかといったことを算定す ることになります。
 まず、医療機関が地域においてどのような役割を担っ ているかについては、2009 年に発生したインフルエン ザA(H1N1)への対応によりわかります。医療機関に おいて、特に流行の初期においてインフルエンザの患 者(疑い例も含む)を受け入れる役割を担ったのか、ま た外来患者だけの対応か、入院患者も対応したのかと いったことによりどの程度準備するかを決定します。
防護具の備蓄量についてHashikuraらは、医療従事 者のリスクに応じた量を提案しています1。表1にリス ク分類を示しました。リスクが高い場合には、N95マス ク、ダブルグローブ、ガウン、ゴーグルを1日に4回分、 またリスクが低いまたは中程度の場合には1日に2回分 をそれぞれの職員に準備することを提案しています。さ らに1日あたり2枚のサージカルマスクをすべての職員 と入院患者、ならびに1枚を外来患者に必要と提案し ています。これらの分量をインフルエンザを想定した場 合には8週間分が必要としています。これらの計算を容 易に行うためにソフトウエア(新型インフルエンザパンデ ミックを想定した個人用防護具備蓄シミュレーション)も 公開されています(http://www.mmm.co.jp/ppesim/)。 ソフトウエアでは、リスクに応じた医療従事者の人数、 コスト、などを入力することで分量の目安や必要な予算 などを計算することができます(図1参照)
 防護具の備蓄を各医療機関で行うことは、コストもか かり、また管理も必要となることから容易なことではあ りません。しかし、医療機関の自主的な取組みとして実 施することが望ましく、さらに公的な支援として国や地 方自治体などが率先して備蓄することも求められます。
 防護具をただ備蓄するだけではなく、普段から使用 法の教育や着脱などの訓練、N95 マスクのフィットテ ストを行い、それぞれの医療従事者が自分にどのN95 マスクがフィットするかといったことを知ることも必 要です2。カナダでの調査では、特に女性はN95 マス クの中でも小さめのサイズでないとフィットしないこ とがあるため、3 種類程度のN95 マスクを医療機関と して準備することが望まれます3。また、N95 マスク についてはマスクが異なれば新たにフィットテストが 必要となるが、戦略的に国や地方自治体で備蓄をしな ければ様々な種類のN95 マスクが存在することになり 新たにフィットテストが必要となることも流行の最中 には支障になる可能性があります。
 N95 マスクについては使い捨てであることや、呼吸 がしづらいといったことからも近年電動ファン付き呼 吸用防護具(PAPR)が候補としても考えられます(P44 参照)。コストは3 万円から20 万円と幅がありますが、 メンテナンスを行うことにより繰り返し利用ができるだ けでなく、フィットテストも不要です。ただし、電動ファ ン付き呼吸用防護具を用いての診療においてはモー ターの音や見栄えには今後さらなる改善が必要です。
 ガウンや手袋などについても、サイズの確認や、そ れぞれの防護具の有効期間などの管理も同時に求めら れます。

診療継続計画の作成
 診療を継続するための計画作りにおいては、新興・ 再興感染症の流行により地域の学級閉鎖や医療従事者 自身が感染し、医療機関において職員が少なくなり、 さらには患者が増加した状況を想定して計画を作る必 要があります。こうした計画は災害においても必要とな るため医療機関において検討が求められます。計画の 作成にあたっては、「新型インフルエンザまん延期にお ける診療継続計画作成の手引き」が参考になり、厚生 労働省のサイトから無料でダウンロードできます4。表 2に示すように、10のステップで計画を作成します。

おわりに
 新興・再興感染症は常に発生する可能性があります。 そうしたなかで職員が安心して働け、また患者に医療 を継続して提供できるように様々な準備を事前にして おく必要があります。その他に、実際の対応の際には 感染管理担当者には多くの負担がかかるため、なるべ く様々な人の関わりにより乗り越えられるよう人材養 成を普段からする重要性についても強調しておきたい と思います。


表1. 感染リスク分類表
感染リスク 該当する医療従事者
・高リスク処置(気管内挿管、気管切開、吸引、酸素マスクによる人工換気法等)を行う医師・看護師
・高リスク処置(感染患者のレントゲン撮影等)を行う診療放射線技師
・中リスク処置(入院患者の経過観察等)を行う医師・看護師
・受付職員(近距離での患者接触頻度が高いため)
・発熱外来やICU等の高リスク患者を収容する施設を清掃する清掃員
・感染患者の治療に直接関与しない医師・看護師
・経過観察患者を収容する施設を清掃する清掃員


表2. 診療継続計画作成のための10のアクション
  アクション
1医療機関としての方針と担当組織を設置する
2迅速かつ的確な情報を確保する
3受け入れ病床の確認と患者の動線の確保をする
4受け入れ能力を調整する
5職員の健康を管理する
6職員、関連機関、地域住民との緊急連絡体制を整備する
7地域の医療機関と行政機関との連携を始める
8医薬品や必要物品を確保できるか確認する
9職員の行動を明確にする
10訓練を実施する


図1. 新型インフルエンザパンデミックを想定した個人用防護具備蓄シミュレーションの画面の例
papr-1

文献
  • Hashikura M, Kizu J.Stockpile of personal protective equipment in hospital settings: preparedness for influenza pandemics.Am J Infect Control 2009;37:703-7.
  • 和田耕治,吉川徹. 呼吸用防護具フィットテスト・トレーニングマニュアル, 労働科学研究所出版部,2010.
  • McMahon E, Wada K, Dufresne A. Implementing fit-testing for N95 filtering face piece respirators: Practical information from a large cohort of hospital workers. Am J Infect Control 2008;36:298-300.
  • 和田耕治. 新型インフルエンザまん延期における診療継続計画作成の手引き. http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/090430-01c.pdf
 
/