はじめに
医療施設で安全機能付きの鋭利器材(以下、安全器
材と略す)を導入する際には、いくつかのステップを
踏んで計画的に導入することで、効果的な針刺し予防
策の実践が可能となる。
米国疾病管理予防センター(Centers for Disease
Control and Prevention:CDC)は、『針刺し損傷防
止プログラムの計画、実施、評価に関するCDC ワーク
ブツク(Workbook for Designing, Implementing,
and Evaluating a Sharps Injury Prevention
Program, CDC' s Division of Healthcare Quality
Promotion[DHQP])』の中で、安全器材の評価の工程
を11 の基本ステップに分けて紹介している(図1.)
(1, 2)。以下にその手順の概要を示す。
安全器材の選定&評価チームのメンバーには、感染制御の担当者、臨床部門の代表者(たとえば看護、内科、外科、麻酔科、呼吸療法、放射線科)、特別部門の代表者(小児科、ICU)、管理部門担当者、中央資材部門担当者などから構成すること。
安全器材の選定&評価チームにより安全器材の検討を行う際には、日本語版エピネット報告書による届け出データの解析はもとより、CDCワークブックに各種ツールも活用し、その優先順位を設定すること。
新しい製品を評価する前に、これまで使用していた器材に関する情報を得ること。使用量、サイズ規格、使用目的、互換性、臨床的な目的(器材性能の臨床的期待度が高い製品に関しては現場担当の医師にも当該安全器材導入のための検討チームに加わってもらう)などについて調査する。
安全器材の選択基準を設定し、検討すべき他の課題についてもあらいだす。設計基準(臨床的使用に必要な特徴と望ましい安全性能を含む物理的特性を規定する)、性能基準(器材が目的とする患者のケアと安全確保にどれほど良好に機能するかを規定する)を設定する。また、包装・物流・廃棄への影響も検討すべき課題である。
物品管理部、製品の卸売り業者、輸入・製造元、他の施設にいる同様の業務に携わる知人、文献資料などからも安全器材に関する情報を収集する。
検討中の器材のサンプルを集めるとともに製品の営業担当者から、供給体制(サイズ別の量)、導入時の院内での現場トレーニングや教材提供の可否、テスト用のサンプル品提供の可否などについて問い合わせること。
製品評価ための調査記入用紙を作成する。製造元が提供した調査記入用紙を用いる場合、潜在的バイアスを除去するため評価項目の事前チェックを行う。使用の難易、作業への影響、器材使用に慣れるまで要した時間などは、すべての器材について付加する。性能に関する質問は器材タイプ別に項目立てする。チームが自分で答えられるような質問を避ける。コメント記載欄を設ける。回答者に関する情報(職種、実務経験歴、新しい器材の操作のトレーニング癧など)も記録する。
製品評価には、その器材を必要とする臨床部門の医師や看護師などの代表者を含める。評価継続期間とし2 ?4 週間が頻回に推奨される。評価期間には、装置の使用頻度ならびに学習曲線(器材の操作に慣れるまでの時間)が含まれる。複数の器材を評価する際は、各製品につき同じ集団と同じ期間を設定する。評価製品をモニターする際には事前にトレーニングを行う。従来の器材をできるだけ撤去し、代わりに検討する器材を配置する。使用者からの器材の性能に関する反応を、2 段階に分けて得ること。第1 段階は非公式で、テスト開始からまもなく実施する。評価委員は器材がテストされている臨床エリアを巡回し、第一印象を得るために使用者と話し合う。第2 段階には製品評価記入用紙を使用し、記録に残す。
調査用紙からデータを集計する。いくつかの因子が製品評価の結果に有利な、あるいは不利な影響を及ぼす場合がある(a. 従来の器材に対するスタッフの経験と好み、b. 製品評価の工程への参加に対する態度、c. 病棟医長や看護師長などのリーダの意見の影響、d. 製品評価チームのメンバーや製造元の営業担当者のコメント、e. 患者の反応など)。
現場使用者のフィードバックおよび評価チームにより得られた情報に基づき製品の選択を行う。新規に採用した安全器材導入時には、製品のトレーニングの実施と既存の製品との置換について調整する。また、第2 選択の製品を代わりとして考慮すべきか、従来品の器材の在庫を再開すべきか、もし従来品の器材がまだ他の目的に利用されている場合は、さしあたりの需要に見合うために在庫を増やすべきかなどについても検討する。
いったん新しい器材が採用されたら、フォローアップ調査を通じて使用者が新規採用した安全器材に引き続き満足しているかどうかの評価を行い、評価期間中に予想または検討されなかった問題にも対処する。採用後の安全機能に関するコンプライアンスも継続して調査する。
図2. CDC ワークブツク日本語監訳版表紙より
【参考文献・資料】